地上の退廃的な豪奢に惓み、王者の男たちより月のように冷たく清い聖者ヨハネに恋した彼女はたしかに
自身もまた清く純粋なものを秘めていたと言えないでしょうか。
ワイルドの戯曲では聖者の生首をとるという残虐性もそれが死を賭した行為ゆえに、裏面から聖なるものに
到達しようとする、真のエロティシズムとして完結していると思えます。しかしこの二十世紀末を生きる私は
純粋さゆえに無明の闇に陥ちたともいえるサロメをこの世で成仏させたいと願いました。
聖者に恋焦がれるのは純粋さであっても、聖性とは所詮冷たい月のように、地上的愛では捉えられないもの。
それに執着し鬼と化すしかなかったサロメ。生首という物体を手に入れてももはやそれは月影にすぎず、かえって
すべてを失ったサロメ。私のサロメのドラマはここから始まります。求めても得られないものを求めさまよい、虚無の
淵に沈み、水底でもがき、その苦悩の果てに光明を見出してほしいものと。
光明はサロメにそそがれる慈愛のまなざしからなのか、それとも彼女の身裡に輝きを増す魂からなのでしょうか。
私のサロメは14点の連作ですが、掲載させていただくのはあえて8点にとどめ、皆様なりのサロメの成仏の過程を
考えていただければと思うのです。
The following pictures are drawn ,imaged from the princess,
Salome from the drama “SALOME”,written by the author,Oscar Wilde .
Many European artists have challenged this theme.
Here in Japan Sachi Adachi,female artist draws the world of SALOME
by the Free−Hand “Yuzen dyeing”on the silk fabrics.
Please take a look at them ,remembering the scenes of this drama.