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第一章 社会民度の低下 第十節 「伝承の崩壊」
伝承・・・古臭く、黴が生えていて神秘的で使えないものというイメージが在るかも知れません。そのような想像豊かで幻想的な話の中で出てくるようなものではなく、伝えられる無形の遺産というものを此処では指します。
伝承・・・それは教えであり、口伝であり、技術であり、体験でありそういった体で覚えていくものが伝承であり神秘の入り込む余地はありません。しかし伝承される形態においては、いささか神秘的な様相を帯びることが稀にあります。伝承者をしぼって細々と伝えていく形態の場合や、その教えや技術などが外部に漏れてはならない場合などです。
ここであつかう論考は神秘的なものを解き明かそうという類の物ではなく、日本の中で培われた「精神性」であり「技術」であり「体験の申し伝え」であります。
教えや技術、体験の申し伝えには意味があります。
いくらネットや本で知ったからといって、知るだけではとうてい使えるものにはならない。知らないよりは知っている方がましではあるが、知っていても体で覚えていないのでものにはなっていない。
さらに言うならば個々の性格と精神性によるが、知っただけでさも出来るように幻想する人がいる。これなどは体験してから言ってくれ、と言いたくなる。知ったかぶった人間がずいぶんと増えたと感じるのは私だけであろうか?。
知っているという段階から、物事と格闘しどのようにすればそれが出来上がるのか、どれとどれを組み合わせれば出来るのかそういった堅忍持久の精神の末に一つの技術が出来上がってくる。
一から自分ひとりで何かを完成したことのある人ならば体験されておられるが、何もないところから作り上げて行く困難さとは想像以上のものであることを・・・。
体験し会得した技術や思想を他者に伝えることは難しい。
簡単に伝えれる様なものは内容が浅いものと思えばよい。例外としては同じような体験をしている人間には伝えるのは早い。
そういった例外をのぞいて伝承とは伝わり難くあるが、伝承者が丹念に伝える、無論のことであるが生徒は礼儀正しく心構えをしっかりなさりて教えを受ける場合、師匠の苦労した時間や体験を短時間のうちに(会得までの膨大な時間に比べてという意味)会得でき指導してもらえる。
伝承とはかくも有難いものであると同時に、失伝の危機にいつもさらされている現実がある。
それは上記にあげた完成させるまでの困難さと伝える困難さとが同時にあるからだ。
現在の日本において失われていく技術や体験が多すぎるといっても過言で無いほどである。たとえば鋳物技術にしても五右衛門風呂を昔の性能で製作することは出来ない。昔の五右衛門風呂は熱伝導率が非常によろしくあり、少しの芝(松の枯れ枝などの焚きつけ材)ですぐに水温が暖かくなっていくほどのものだ。
こういったすぐれた技術は製作作業とともに師匠から伝えられるものであり学校で教育される生徒のような形態ではなく、共に作業を教えられるという場合もある。
伝承の崩壊を完全に止めることなどはもはや不可能といってよいが、貴方の周りで興味あることは出来うる限り体験し話を聞いておくことがのぞましい。
何が伝承の崩壊を促進させているのかの要素は数多くある。
@ 戦争に負けて後、欧米とくに米国の生活文化の流入により生活方式が変化によっての崩壊。
A 経済第一主義の社会的風潮の結果、生産性などの合理化によっての崩壊。
B 社会全体の志向として意味や伝統より簡便さを求める傾向の末の崩壊
C 物を作り出せない人が多くなってしまった末の無理解による崩壊。
D 技術や思想を身に付けるより場当たり的にこなして一貫性にかける人が多くなった末の崩壊。
E 自らの力量を測れない故に師弟関係をとれない人の増大。
F すぐに結果が出ないものへ手を出さなくなった風潮。
上記を始めとした諸問題により貴重なものが失伝していっている。
すべてのものは長い歴史の上に積みあがっているものである。
このことを知らなくては何時の日か、いや・・・近いうちに失ったものの大きさに呆然となることであろう。
古くからの伝えや基盤を大切にするそのような謙虚な気持ちが日本を再生させる種となってくれると信じる。